フィルムユーザーは年間 13.7 本のフィルムを使用 - フィルム写真に関する意識調査 2024 調査結果
FilmFocusでは、2024年11月26日から12月31日にかけて「フィルム写真に関する意識調査2024」を実施しました。調査はオンラインのアンケートフォームを用いて行い、合計802件の回答がありました。本記事は、調査結果を統計データとして整理し、考察を加えたものです。
1. 調査背景
国内で過去に実施されたフィルム写真に関するアンケート調査としては、2023年にリコーが「フィルムカメラプロジェクト」に合わせて実施した「ユーザーアンケート」や、2019年にロモグラフィー・ジャパンが実施した「フィルム写真に関するアンケート」などがあります。しかし、いずれも詳細な集計結果は公表されておらず、国内では広くアクセスできる定点観測的なフィルム写真に関する調査結果は存在しないのが現状です。
海外では、ILFORD Photoが数年に一度「Global Film Users Survey」を実施しています。 2014年版では2,100人、2018年版では6,800人がそれぞれ参加しています。調査結果は部分的にではありますが公表されており、フィルム写真の現状を知る上で貴重な定量データとなっています。また、英語圏のオンライン掲示板redditでは2015年に327人、2020年に1,522人が参加したアンケート調査が行われています。
今回、FilmFocusでは日本国内でもこのようなオープンな調査が必要との思いから、「フィルム写真に関する意識調査2024」を実施しました。ユーザーの実態やニーズを定量的に調査・報告することで、フィルム写真のエコシステムに少しでも貢献できないかと考えています。
2. 調査結果サマリ
- フィルムユーザーは、概算で年間13.7本の35mmフィルムを使用しています。120フィルムを使う人は回答者の約半数で、年間6.7本の120フィルムを使用しています。シートフィルムを使う人の割合は全体の10%未満でした。
- フィルムユーザーは平均6.2台のフィルムカメラを所有していることが明らかになりました。経験年数を経るにつれて保有台数は増え、10年以上フィルム写真を続けている人は平均8.0台のフィルムカメラを所有しています。
- 過去5年の間にフィルム写真を始めた人の中では、インターネット・SNSがきっかけとなった人の割合が最も高くなりました。オンラインの情報は、新たなフィルムユーザーを増やすための重要な要素となっています。
- この1年でフィルムを使う頻度が増えた人は30%で、減った人の27%をわずかに上回りました。増えた理由としては「新しいカメラの購入」、減った理由としては「コスト」がそれぞれ最も大きな要因として挙げられました。
3. 調査結果
3-1. フィルム写真を始めたきっかけ
経験年数によって異なる特徴が見られました。過去5年以内にフィルム写真を始めた人のうち、動機として最も大きな割合を占めたのは「インターネット・SNS」でした。経験年数が長くなるにつれ「家族」がきっかけとなる割合が増え、経験年数が3〜10年のグループでは約4人に1人が家族の影響でフィルム写真を始めています。一方、10年以上フィルム写真を続けている人にはこの傾向が当てはまらず、「選択肢がフィルムしかなかった」という回答が最も多くなりました。
図1: 経験年数別・フィルム写真を始めたきっかけ(単一回答)
3-2. フィルム写真の好きなところ
複数回答で尋ねた結果、全体としては「写真の見た目が好き」「写真ができるまでのワクワク感」を挙げる人が最も多い傾向にありました。また、経験年数が増えるにつれて「現像・プリントの楽しさ」を好む人の割合が増えていることがわかりました。フィルム独特の質感やプロセスに魅力を感じてフィルム写真を始めた人が、撮影を続けるうちに現像やプリントといった新たな楽しみを「発見」していくプロセスがうかがえる結果となりました。
図2: 経験年数別・フィルム写真の好きなところ(複数回答)
3-3. フィルム写真に関する情報収集方法
複数回答で尋ねたところ、「SNS」「メーカー以外のウェブサイト」「メーカーの公式ウェブサイト」といったオンラインの情報源が多数を占める結果となりました。中でもSNSは経験年数を問わず最もよく利用される情報収集の手段となっています。また、経験年数が10年以上のグループでは「メーカーの公式ウェブサイト」を挙げる人の割合が「メーカー以外のウェブサイト」を挙げる人の割合を逆転しました。
図3: 経験年数別・フィルム写真に関する情報収集方法(複数回答)
3-4. 過去1年間に使ったフィルムの種類・数
過去1年間に使用したフィルムの種類と数を尋ねたところ、回答者のうち96%が35mmフィルムを、54%が120フィルムをそれぞれ1本以上利用していることがわかりました。使い捨てカメラを使った人は20%、シートフィルムを使用した人は10%未満でした。年間で「50本以上」のフィルムを使うヘビーユーザーは、35mmフィルムでは全体の6%、120フィルムでは1%となりました。
回答結果から概算すると、フィルムユーザーが1年間に使用する平均本数は、35mmフィルムが約13.7本、120フィルムが約6.9本という結果が得られました。
図4: 過去1年間に使ったフィルムの種類・数
3-5. フィルムを使う頻度の変化・理由
過去1年間でフィルムを使う頻度が「増えた」と答えた人は30%、「減った」と答えた人は27%でした。わずかではありますが、増えた人が多い結果となっています。
自由回答で尋ねたところ、増えた理由として最も多かったのは「新しいカメラの購入」(23%)で、次いで「最近始めた・再開した」(12%)が挙げられました。一方、減った理由で最も顕著だったのは「コストの増加」(70%)で、ほかの理由に大きく差をつける形となりました。
図5: 過去1年間のフィルムを使う頻度の変化
3-6. 過去1年間に使ったフィルムのブランド
複数回答で、過去1年間に使用したフィルムのブランドを尋ねました。富士フイルムとコダックは経験年数を問わず高い使用率ですが、イルフォードは経験1年未満の使用率が35%、10年以上では57%と、経験年数が長くなるほど利用率が上昇する傾向が見られます。ロモグラフィとシネスチルは経験年数3〜5年の層で最も多く利用されていることがわかりました。
また、利用したフィルムブランドの数についても集計を行いました。経験年数別に比較すると、フィルム写真を始めてから5年目までは使用ブランド数が増え続けますが、5年を超えると使用するブランドの種類が減少し始めることが明らかになりました。初心者の段階でさまざまなブランドやフィルムを試しながら、自分の好みに合ったものを見つけていく過程がある一方、経験を重ねるうちに愛用するブランドが定まってくる傾向がうかがえます。
図6: 経験年数別・過去1年間に使ったフィルムのブランド
図7: 経験年数別・過去1年間に使ったフィルムブランドの数
3-7. フィルムカメラの所有台数
経験年数が長いユーザーほど、多くのフィルムカメラを所有している傾向が明らかになりました。回答結果から概算すると、全体を通じてのフィルムカメラの平均所有台数は6.2台となりました。また、フィルム写真を始めて1年未満の人は平均3.5台のフィルムカメラを所有しているのに対して、10年以上の経験がある人は平均8.0台のカメラを所有していることがわかりました。
図8: 経験年数別・フィルムカメラの所有台数
3-8. フィルムユーザーの価値観
フィルムユーザーの価値観を調査するために、以下の各項目について10段階のリッカート尺度を用いて尋ねました。平均スコアはそれぞれ以下のようになりました。
図9: フィルムユーザーの価値観・平均スコア
さらに、これらの項目について相関分析を行った結果は以下のようになりました。「調べるのが好き」な人は「技術的」な側面への関心が高い傾向が強く、フィルム写真について熱心に調べる人ほど、技術的な知識やノウハウ、機材・プロセスなどに興味を持ちやすいと推測されます。また、「フィルム写真をお勧めする」人は外交性・コミュニティ志向も高めで、フィルム写真を他人に勧める人は元来社交的であり、コミュニティに対しても積極的な姿勢を持っている可能性があります。
アーティスティックな志向と技術的志向がある程度両立することも読み取れます。フィルムの芸術面に惹かれる人も、まったく技術に無関心というわけではなく、一定の知識探求を好む傾向が確認できました。
図10: フィルムユーザーの価値観・相関分析
3-9. フィルムの現像方法
最後に、撮影が終わったフィルムの現像方法について尋ねました。全てのフィルムをラボで現像する人の割合は67%、フィルムによってラボと自分での現像を使い分ける人が26%、全てのフィルムを自分で現像する人は7%でした。
経験年数別に確認すると、おおむね経験年数が長くなるにつれて自分で現像する人の割合が増える傾向が確認できました。最も自分で現像する人の割合が大きいのは経験年数が10年以上のグループで、合計44%が自分で現像を行っています。
図11: 経験年数別・フィルムの現像方法
4. インサイト
4-1. コスト懸念はカスタマージャーニー全体で顕在
フィルムを使う機会が減った理由として「コスト」を挙げる人が最も多い結果となりました。自由回答の詳細を確認すると、フィルムの価格だけでなく現像やカメラの修理など、フィルムを取り巻くエコシステム全体でのコスト増に関する懸念が聞かれます。
最も多くの意見が見られたのが、フィルムそのものの価格高騰でした。フィルム価格に大きな影響を与える要因が、原材料である銀の価格です。三菱マテリアル社 によれば、2000年から2024年にかけて銀の価格は約6倍に高騰しています。他にもエネルギー価格の上昇やインフレなど、フィルム生産事業者は多くの側面でコスト増と向き合っているのが現状です。また、コダック社は 映画用フィルムのリスプールによる販売を制限 すると見られています。こうした外部環境によって、2025年もフィルムの価格が大きく下落することは考えにくいのが実情です。一方で、 富士フイルムが2024年に中国でカラーフィルムの生産ラインを再稼働 させたという情報もあり、今後の動向が注目されるところです。
他にも、「現像・スキャン」にかかるコストが負担となっているという声が多く寄せられました。国内ではフィルム現像ラボの閉鎖・休業が相次いでおり、現像サービス需要・供給のバランスが崩れ始めている可能性が考えられます。一方、ラボもサポートが終了した旧世代の現像機器に頼っているのが現状で、現像ビジネスの行く先も不透明です。一部の海外メーカーは現像・スキャン機器の開発を発表していますが、まだ開発段階であるものも多く、新しい機器がフィルム写真のエコシステム全体に影響を与えるほどの存在になるまでは少なくとも数年かかりそうです。 調査を通じて見えてくるのは、フィルム写真は根強い人気・需要があるものの、フィルム写真のエコシステム全体がコスト増の圧力を強く受けているという実態です。このような状況下でも、フィルムを使う頻度が「増えた」人が3割にのぼるのは明るい材料です。自由回答をみると、バルクロールや期限切れフィルムの活用、自宅での現像などを通じてコストを抑えながらフィルム写真を楽しむ工夫が見られました。
4-2. 新機種は明るい話題
「Pentax 17」や「Rollei 35AF」に代表される2024年に発表・発売された新機種に言及したコメントが多く寄せられました。コメントは概して好意的で、「新しいカメラの存在が頼もしい」「新しいカメラによってフィルムを使う機会が増えた」といった意見が多数を占めました。一方で他の大手メーカーからのフィルムカメラ発売に期待を寄せる声や、現時点で生産終了となっているフィルムの復刻を願う声も聞かれました。
2025年にも、新しいフィルムカメラが発売されるとの情報が複数寄せられています。新しいフィルムカメラの発売はそれ自体にニュースバリューがあり、「フィルムは今後もなくならない文化なんだ」という安心感をユーザーに与えます。一方、現状ではペンタックス以外の大手ブランドからはフィルムカメラの新発売に関する情報は聞こえてきません(富士フイルムの「チェキ」シリーズを除く)。ペンタックスに続いてニコンやキヤノン、富士フイルムなどのブランドがフィルムカメラに再参入すれば、多くの需要を呼び起こすことができる可能性があります。
4-3. 若い世代はデジタルから離れるきっかけを求めている
若い世代ほど、フィルム写真が好きな理由として「デジタルから離れるきっかけ」になることを挙げています。10代の回答者の34%、20代の回答者の24%にこの傾向があり、この層においては「デジタル・デトックス」の一手法としてフィルム写真が受け入れられている可能性があります。
フィルム写真以外の文化に目を転じると、アナログレコードやカセットテープなど、音楽の世界においてもアナログな手法を再評価する動きが高まっています。特にアナログレコードについては 2020年に米国で売上がCDを上回り 、アーティストの「古くて新しい」収入源になっています。
一方で、フィルムカメラの流行に数年遅れる形で「レトロなデジタルカメラ」も話題になっています。「平成レトロ」を感じさせる本体のデザインや、一世代前のCCDセンサならではの写真の質感、万能なスマートフォンに対して写真撮影という単一の機能をを備えている点がかえって新鮮に写る、といった側面が評価されています。このトレンドはTikTokが発信源と捉えられていますが、「デジタルな世界から距離を置きたい」というニーズを持つ層に対してこの「デジタルカメラ」のトレンドがどのように受容されるのか、注目したいところです。
5. おわりに
以上、「フィルム写真に関する意識調査2024」の調査結果でした。本調査にご協力いただいた皆様に、改めてお礼申し上げます。調査に関するご意見・ご質問がございましたら、 問い合わせフォーム よりご連絡ください。FilmFocus では今後もこのような調査や、フィルム関連の話題についてレポートしていければと考えております。引き続きよろしくお願いいたします。